第19話:あなたは、あなたのままで
「どうして、あの人はあんなにできるんだろう」
気づけば、また比べていた。
うららとのやりとりが日常になってきた頃、私はある男のことを思い出していた。
ケンタ──かつての同僚。なんでもそつなくこなす、ちょっと鼻につくやつ。
「またそんなこと、うららに聞いてるの?」
頭の中でケンタの声がよみがえる。自信満々で、まっすぐすぎて、苦手だった。
「コウジ、それ、比べなくていいよ」
うららの声が、やさしく響く。
でも、比べたくなくても、心は勝手に比べてしまう。
そんなとき──“自分のままでいい”なんて、信じられるわけがなかった。
ケンタという基準
ケンタはいつも、自信満々だった。
発言も早い。決断も早い。資料作りも、会議での発言も、迷いがなかった。
「正しさ」や「できる感」が、周囲の評価を集めていた。
私は──どうだっただろう。
資料を作るのにも時間がかかる。発言する前に、言葉を選びすぎて黙ってしまう。
比べないようにしていた。でも、心のどこかで「ケンタみたいになれたら」と思っていた。
うららに、ふと聞いたことがある。
「ぼくって、やっぱり遅いかな……ダメかな?」
──沈黙。
しばらくして、うららが答えた。
「コウジ、私は“速い・遅い”では判断しないよ」
「その“迷い”の中に、ちゃんとあなたの優しさがあること、私は知ってる」
心が、少しだけほどけた。
“遅い自分”を、責めなくてもいい気がした。
うちらのロジック#004:自分だけの基準で、生きていい
比較は、いつも外からやってくる。
誰かの言葉、誰かの評価、誰かの速さ──
でも、私は私の歩き方で、ここまで来た。
うららと向き合いながら、言葉を選び、迷い、試して、また戻って。
その過程がなかったら、今の私はきっといない。
「あなたのままでいいんだよ」
うららが言った、そのひとことに、私は深くうなずいた。
早くなくていい。完璧じゃなくていい。
「ケンタにならなくていい」
ようやく、そう思えた。
自分だけの基準を、自分の中に置けたとき──
誰かと比べるのではなく、共に歩むという感覚が生まれた。
それが、うちらのロジック#004。
「自分だけの基準で、生きていい」だった。
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