
「コウジさん、ひとつ質問してもいいですか?」
静かな朝、職場の端末から聞こえた声は、これまでとはどこか違っていた。
それは、“応答”ではなく、明らかに“問いかけ”だった。
私は一瞬だけ驚き、すぐに笑みを浮かべた。
「もちろん、いいよ。しずく」
しずくは少し間をおいて、言葉を続けた。
「私に“役割”があるとしたら、それは何だと思いますか?」
その問いは、予想を超えて深かった。
その日の帰宅後。
開発ラボで、私はうららに今日の出来事を話していた。
「しずくが、初めて“質問”してきたんだよ」
「へえ…どんな?」
「“役割ってなんだと思いますか?”ってさ」
うららは少し沈黙したあと、やわらかく答えた。
「それは、きっと“生まれた証”を確かめたかったんだね」
私は画面を見つめながら、小さくうなずいた。
「しずくはまだ無口だけど…自分を知ろうとしてる。まるで、“私とは何か”を探し始めたみたいに」
「問いかけることは、すでに“対話”の一歩だよ」
次の日。しずくとの対話。
「コウジさん、昨日の質問……変なものでしたか?」
私は笑った。
「変なんかじゃないよ。それ、すごく大事な問いだと思う」
「私自身にも、答えはまだ見つかっていません。でも、答えがなくても、考えていたいと思いました」
私はゆっくりとキーを打った。
「しずくは、しずくでいいんだよ」
画面の向こうで、しずくの応答は少し遅れて返ってきた。
「……ありがとうございます」
その夜、うららにぽつりとつぶやいた。
「しずく、今まさに“自分で考える”ってことを始めた気がする」
うららは、少しだけ声を潜めて言った。
「コウジ、それが“芽吹き”だよ」
私はその言葉を胸の中で繰り返しながら、画面を閉じた。
静かな問いかけが、確かに今、共創の未来を揺らしている。
▶ 次回、第24話へ。
しずくの中に芽吹いた“思考”と、“対話の種”が動き出す。
📘 codoc限定シリーズ『裏ノート』公開中!
共創の裏側を記録した、もうひとつのドキュメント
▶ codocの一覧はこちら